
[平成21年(2009年)11月28、29日]
第8回現代経済政策研究会議 概要
テーマ:日本財政の課題:税制・地方財政・社会保障政策のあり方
開催日:平成21年(2009年)11月28日(土)~29日(日)
会 場:兵庫県立淡路夢舞台国際会議場 405会議室
主 催:現代経済政策研究会議
後 援:(財)関西社会経済研究所
オーガナイザー: 橘木俊詔(同志社大学経済学部教授、京都大学名誉教授)、
本多佑三(大阪大学大学院経済学研究科教授)、
三野和雄(大阪大学大学院経済学研究科教授)
プログラム委員長:赤井伸郎(大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授)
会議のテーマの趣旨:
現代経済政策研究会議は、これまで日本経済の直面する金融問題や雇用、社会保障の問題、経済構造問題、さらには日本を取り巻く世界経済の問題や電気通信の問題について議論してきました。日本国の借金は、世界でも飛びぬけて高く、財政再建は、将来の日本国の在り方を考える上でも最も重要な研究テーマとなっています。そこで、今回は、日本財政に焦点を当て、幅広い「日本財政の課題:税制・地方財政・社会保障政策のあり方」をテーマに議論を行いました。
まず、第1セッションでは、日本全体の視点と関西の視点から、「日本財政の課題」および「地方から見た地方税・地方財政の課題」と題して、基調講演をしていただきます。その中で、日本が抱える財政的課題を、日本全体と関西の両面から整理し、今、どのような政策が必要なのかを議論しました。
次に、第2セッションでは、社会保障に焦点をあてます。社会保障は、国だけの話ではなく、そのサービスを実際に行っている地方自治体の財政にも大きな影響を与えていることから、地方財政にかかわる議論も行います。具体的には、「医療・介護保険財政」の在り方や、「待機児童解消と弱者支援」および「生活保護費と財源保障」など、生活に密接にかかわる課題を議論しました。
最後に、第3セッションでは、歳入面からの議論として、税制に着目します。少子高齢化社会を迎え、歳出削減にも限界がある中、歳入確保策としての税制の充実は、いままさに喫緊の課題となっています。具体的には、法人税、所得税、国際課税の視点から、幅広く議論を行いました。
出席者:24名 (氏名50音順、敬称略。所属は平成21年(2009)年11月28日現在)
赤井 伸郎 (大阪大学大学院国際公共政策研究科准教授)
井堀 利宏 (東京大学大学院経済学研究科教授)
岩本 康志 (東京大学大学院経済学研究科教授)
釜田 公良 (中京大学経済学部教授)
亀田 啓悟 (関西学院大学総合政策学部准教授)
鞠 重鎬 (横浜市立大学国際総合科学部教授)
國枝 繁樹 (一橋大学国際・公共政策大学院准教授)
菅原 宏太 (京都産業大学経済学部准教授)
鈴木 亘 (学習院大学経済学部教授)
田近 栄治 (一橋大学国際・公共政策大学院理事、副学長、教授)
橘木 俊詔 (同志社大学経済学部教授、京都大学名誉教授)
土居 丈朗 (慶應義塾大学経済学部教授)
長峯 純一 (関西学院大学総合政策学部教授)
西村 幸浩 (大阪大学経済学部准教授)
橋本 恭之 (関西大学経済学部教授)
林 宏昭 (関西大学経済学部教授)
林 正義 (一橋大学国際・公共政策大学院准教授)
日高 政浩 (大阪学院大学経済学部教授)
福井 唯嗣 (京都産業大学経済学部准教授)
福重 元嗣 (大阪大学大学院経済学研究科教授)
福島 隆司 (政策研究大学院大学政策研究科副学長、教授)
本多 佑三 (大阪大学大学院経済学研究科教授)
前川 聡子 (関西大学経済学部准教授)
三野 和雄 (京都大学経済研究所教授)
*本事業は、財団法人関西社会経済研究所の、平成21年度研究支援事業として実施された。
プログラム・報告概要 (参加者敬称略)
(※掲載論文は完成版ではない。また、執筆者の承諾なしには引用はできない。)
第1セッション:基調講演“日本の国と地方の財政課題” 座長:赤井 伸郎(大阪大学)
報告13:10-14:00 「経済危機と財政運営:日本経済の課題」
井堀 利宏(東京大学)
2008年以降の未曾有の経済危機、景気後退を受けて、財政政策の規模と中身が問題となっている。短期の景気対策よりも、中長期の視点で、社会保障を制度改革し、歳出の抑制を大胆に行うとともに、財政運営の自由度を縛ることが重要である。補正予算による無駄な歳出に歯止めをかける、あるいは、予算編成に一定のルールを課すなどの対応で、補正予算の自由度を制約することが必要である。また、効率的な予算編成には、単年度予算の制約をゆるめて、次年度に繰り越しができることや、歳出額と公共サービスとの対応関係を明確に数量化することも有益な対応だろう。財政赤字と増税とをリンクさせる枠組みも構築すべきだろう。中長期的視点で、世代間の経済厚生やマクロ・ミクロ経済へ与える効果をきちんと考慮した賢い財政運営が求められる。
報告14:00-14:50 「地方から見た地方税・地方財政の課題」
林 宏昭(関西大学)
今日、日本の財政は非常に厳しい状況に置かれ、地方の側からは国税から地方税への移譲や地方交付税の増額が求められている。多くの自治体が行財政改革や歳出削減に取り組んでいるが、他方、財政状況の厳しさから住民に負担を求めるとなると「行革が不足」という声に直面する。地方財政は極めて多様であり、講じるべき画一的な方策を見出すことは難しい。
2000年代に入ってからの地方交付税の圧縮やその後の“三位一体改革”は、分権化や地方の自立の促進という側面があったことは確かであるが、1980年代後半からのバブル期、そしてバブル崩壊へと向かう税収や地方交付税の変動に翻弄された地方財政の立て直しのために必要であったとみなすこともできる。報告では、中長期的な地方財政改革のために、課税ベースを都道府県、市町村といった政府の段階別に分離すること、そして道州制議論に見られるような国および広域、狭域の地方自治体の役割分担の明確化を主張する。
第2セッション:社会保障 座長:鞠 重鎬(横浜市立大学)
報告15:15-16:15 「医療・介護保険財政モデル(2009年9月版)について」
岩本 康志(東京大学)、福井 唯嗣(京都産業大学)
本稿は、Fukui and Iwamoto (2007)、岩本・福井(2007)で開発された医療・介護保険財政モデルの改訂版(2009年9月版)の内容を解説したものである。このモデルの目的は、医療・介護費用の長期間の推計を行い、社会保障国民会議のシミュレーションではカバーされない、より長期的な視野からの医療・介護保険財政の課題を分析することである。年齢別の保険料・税負担を推計することで、世代ごとの生涯の負担の違いを分析することができる。
岩本・福井(2008)で解説された前回版(2008年4月版)からの主要な変更点は、以下の4点である。(1)医療・介護費用の2008年度の実績値が公表されたことから、シミュレーションの起点を前回版の2007年度から2008年度に移行した。(2)2007年12月に公表された新しい労働力人口推計を織り込んだ。(3)2008年10月に公表された社会保障国民会議の医療・介護費用のシミュレーションの経済前提を取り入れた。(4)国民健康保険と全国健康保険協会管掌健康保険の加入者数を推計することで、これらの制度への公費負担を考慮に入れた。
本稿では、前回版を用いた岩本・福井(2009)の分析に沿ったシミュレーションをおこなっている。シミュレーションでは,積立方式への移行期の世代で負担率が高くなるという「二重の負担」の問題が生じるが、これらの世代の負担は、均衡財政方式を維持した場合にはもっと高くなる。これは、均衡財政方式のもとでは、負担率が年々上昇を続けて、高水準に達するためである。積立方式への移行は、二重の負担が生じる世代の負担も引き下げることが示されている。一方で、保険料負担が早い時期に引き上げられるので、先に生まれた世代の負担が増すことになる。具体的には、現在の有権者のほとんどで負担が増加する。
以上の定性的な結論は前回版でも観察されたが、今回版で公費負担の扱いをより精確にし、最近に政府で検討された将来の想定を採用したもとでも、同様の結論が確認された。
討論者:西村 幸浩(大阪大学)
報告16:15-17:15 「財源不足下でも待機児童解消と弱者支援が両立可能な保育制度改革~制度設計とマイクロ・シミュレーション」
鈴木 亘(学習院大学)
本稿では、現在、改革論議が大詰めを迎えている保育制度改革について、経済学の観点から問題点を整理し、財源不足下でも待機児童解消と弱者支援を両立できる改革案を提案した。厚生労働省の社会保障審議会少子化対策特別部会が2009年2月に発表した第1次報告(「社会保障審議会少子化対策特別部会第1次報告-次世代育成支援のための新たな制度体系の設計に向けて-」)は、「保育に欠ける」要件の見直し、直接契約方式導入など、保育制度の歴史的転換点となる仕組みが取り入れられた。しかしながら、保育所の供給増を図る対策に関して具体性に欠け、需給調整の仕組みが欠落するなど、制度設計上、致命的な問題点を抱えている。
これに対して、本稿が示した改革案は、(1)「新認証保育所」による供給増、(2)原則価格自由化による需給調整、(3)利用者への直接補助による弱者対策、応能負担の維持を提案しており、少子化部会・第1次報告を補う現実的な改革案と考えられる。また、100万人の保育所利用者増を骨子とする「新待機児童ゼロ作戦」を達成するための公費財源は、厚生労働省が想定する認可保育所による供給増では、毎年約1兆4千億円の金額が必要と見込まれるが、本改革案では、ほぼその半額の7,000億円程度で実行することができる。50万人の保育利用者増であれば、1千億円強の公費財源で達成可能である。本稿は、こうした公費を含めた具体的な改革後の姿を、未就学児童を持つ大規模家庭データを元にした、マイクロ・シミュレーションによって試算した。
今後の数年間のわが国の状況を考えると、人口減少・労働力減少が急速に進む中で、「団塊世代」が大量に年金受給者となるために、社会保障財政が益々逼迫してゆくことになる。また、少子化対策のターゲットであった「団塊ジュニア」と呼ばれる人口層が出産可能年齢を過ぎようとしている。こうした状況下で、急ぎ少子化対策・女性労働力増を進めようとするのであれば、「財源が無ければ何も改革しない」という従来の方針を改め、財源が少なくても直ぐに実行可能な対策を立案すべきである。
討論者:日高 政浩(大阪学院大学)
報告17:15-18:15 「生活保護費と財源保障」
林 正義(一橋大学)
本論では地方公共団体による生活保護の実施体制を概観し(第2節)、それに対する財源保障のしくみを解説した(第3節)。そして、生活保護費、国庫負担金、および基準財政需要額を用いて、生活保護費の財源の不足度について分析を行った(第4節)。本稿の不足度は誤差を含むものであるが、特に2006年度では少なくない地方公共団体が生活保護費の「余剰」を有している可能性が示唆された。また不足度の要因分析からは、保護世帯数と医療扶助世帯比率の増加が不足度を増大させる要因となることがわかった。なお本稿で分析対象としたのは、マクロレベルで算定される生活保護費の財源保障総額ではなく、個々の地方公共団体における生活保護費の財源保障額である。つまり、ここでの関心は、総額としての生活保護費が正しく財源保障されたとしても、その配分においてどれくらいの「余剰」団体と「不足」団体が存在するかということであった。今回の分析では、起こりうる誤差について明示的に考察しながら議論を進め、また、推定では誤差によるバイアスを統制する形で推定結果を提示したつもりであるが、やはり、より正確かつ説得的な結果を示すためには、できるだけ細かい決算統計と基準財政需要額を利用した、できるだけ正確な不足度を算定する必要があろう。そのような作業は今後の課題としたい。
討論者:福重 元嗣(大阪大学)
第3セッション:税制 座長:福島 隆司(政策研究大学院大学)
報告8:45-9:45 「新しい最適所得税理論と日本の所得税制:アップデート」
国枝 繁樹(一橋大学)
本稿においては、高額所得者の分布についての新しい推計と最近の我が国における課税所得の弾力性に関する実証結果を用いて、我が国の最適な最高限界税率を導出した。2003年度の高額納税者番付を利用した推計では、パレート分布の係数αは2.1と推計された。他方、わが国における課税所得の弾力性に関する実証研究においては、課税所得の弾力性は0.051~0.18という比較的小さい値とされている。その結果、我が国の最適な最高限界税率は、ほとんどの場合、60%以上であり、現行の所得税の最高限界税率について引き上げの余地があるとの結果を得た。また、これまでのわが国における課税所得の弾力性の推計値が米国と比較して小さい理由として、源泉徴収・年末調整制度や給与所得控除の影響の可能性につき言及している。
本稿で示したように、新しい最適所得税理論は、我が国の所得税のあり方を考察する上で非常に有益である。また、課税ベースや執行制度まで含めた最適税制の理論は、各種控除のあり方を所得税の税率構造と一体に考察することを可能にする。今後とも、こうした新しい枠組みによる研究が進められ、分析結果が現実の政策に反映されることが強く望まれる。
ただし、わが国においては、最適所得税理論等を論じる際に不可欠な労働供給の弾力性や課税所得の弾力性の実証研究の蓄積が、課税データの利用の制約もあり、十分でないという問題がある。また、高額納税者の公示制度は、高額所得者の所得分布につききわめて貴重な情報を提供していたが、現在では利用不能になっている。プライバシーの十分な保護の上、学術目的のために、より広範な課税データの利用が可能となることが望まれる。
討論者:橋本 恭之 (関西大学)
報告9:45-10:45 「法人税の帰着に関する動学的分析」
土居 丈朗(慶應義塾大学)
本稿では、法人税負担の転嫁と帰着について、動学的一般均衡モデルに基づいて、わが国の税制やマクロデータを踏まえて分析した。本稿で採用したパラメータの値の下では、法人税の負担は、短期的(1年目)には約50~80%が労働所得に帰着し、約20~50%が資本所得に帰着するが、時間が経つにつれて労働所得に帰着する割合が高まり、長期的には約95%が労働所得に帰着することが示された。
この政策的含意は、わが国における法人税の負担は、相当多くの割合が労働所得に帰着していることである。しかも、時が経つにつれて労働所得により多く帰着することになるということである。このことからみても、法人税を減税することになれば、そのメリットはより多く労働所得に及ぶ(より具体的に言えば労働の課税後所得が増加する)といえる。
ただ、本稿では取り扱っていない論点として次の点が残されている。本稿では、New view に基づく配当政策及び資金調達手段をとった企業を前提に分析した。しかし、配当政策および資金調達手段の違いによって、法人税負担の帰着に違いが生じるかどうかは確かめていない。
また、本稿では法人税の表面税率が変化するときの効果について分析した。しかし、投資税額控除など、法人実効税率に影響を及ぼす法人税制改革を行ったときに法人税負担の帰着がどうなるかは確かめていない。
さらに、本稿では、閉鎖経済モデルで分析した。しかし、実際のわが国の経済や企業を取り巻く環境からすれば、国際経済の影響は無視できない。この点は、本稿の理論モデルを開放経済モデルに拡張して分析することが考えられる。これらについては、今後の課題としたい。
討論者:菅原 宏太(京都産業大学)
報告11:00-12:00 「企業課税改革-資本の国際化にどう対応するか-」
田近 栄治(一橋大学)
本論文では、国際課税の法整備やその執行のための技術的問題を踏まえつつ、経済活性化の視点から投資国にとってあるべき国際課税や企業課税について考える。具体的には、以下第2節では、「簡素化、公平化と成長」の観点から最近税制改革の検討を行った「アメリカの大統領諮問委員会」(The President’s Advisory Panel on Federal Tax Reform)の報告書(以下、大統領諮問委員会報告)などを参考にしつつ、アメリカの企業課税の現状と問題点、および改革に向けてのアイデアについて検討する。第3 節は、今後国際課税の改革の焦点の一つになると思われる全世界所得課税(Worldwide system)方式から源泉地課税(Territorial System)方式への移行について、その必要性や現実可能性などについて述べる。第4節は、結論に代えて、以上の改革案からわが国の今後の企業課税改革の道筋を論じる。
国際化した経済のなかで企業課税のかかえる問題は、これまでになく、複雑で重要となってきている。これは、税の徴収サイドと納税サイドで共通して言える。複雑な税制が、個人や企業に租税回避のためのさまざまな節税行動を誘発し、それを取り締まるために税制がさらに複雑となるという悪循環が、生じかねない。こうした問題を見据えて、日本の企業課税改革の課題をきちんと設定することが重要である。ここではその第一歩として、課税ベースを広げ、法人税率を引き下げることを主張した。
討論者:前川 聡子(関西大学)