


2011.02.08
1.2010年阪神タイガースはなぜ優勝できなかったか
2011年2月1日、プロ野球全12球団は各地でキャンプを開始した。オープン戦を経て、3月25日から2011年のシーズンが始まる。
筆者は昨年8月に「阪神タイガースの現況と予測」として2010年シーズン終盤の展望に関する拙稿を執筆した。昨年の阪神タイガースは8月に一旦は首位に立ったものの、最終的にはシーズン2位という成績であった。そしてポストシーズンのクライマックスシリーズ1stステージで3位の読売に2連敗し、シーズンを終えたのである。結果を見れば、首位中日との差はわずか1ゲーム、中日との直接対決であと1試合勝っていれば順位が逆になっていたという僅差であった。特に打撃成績は、強打を武器に優勝した1985年や2003年を上回るチーム打率であった。
阪神タイガースはなぜ優勝できなかったのか。
野球はチームスポーツとよく言われる。試合の勝敗の行方を最も左右するのは選手個々人の能力であろう。しかし読売が各チームの4番打者をかき集めても優勝できなかったように、一人一人の才能が優れていても、必ずしもシーズンの優勝に直結するとは限らない。シーズンを通したチーム成績については、選手だけでなく監督・コーチ、あるいはフロントまで含めた能力が問われることになる。特に、監督の影響は大きい・・・とすれば、2010年の阪神タイガースのV逸は、真弓監督に大きな責任があるように考えるのが自然だ。
しかし、監督の手腕というものは、打率や防御率といった選手の成績と異なり、はっきりと数字で示されることはほとんどない。
2.「監督能力」を数値化する
こうした監督の手腕、すなわち「監督能力」を選手成績のように数字で示すことができないだろうか。このことについて、大竹・安井(2005)では計量経済学の手法を用いて、監督能力を定量化し、「名監督ランキング」を作成している 。ここでは監督能力を「一定の戦力が与えられたもとでどれだけ勝率を高めることができるか」と定義している。つまり、同一の戦力を持つチームを想定し、このチームを個々の監督が率いたときに期待される勝率によって、監督能力を推計するのである。
そこで、今回はこの大竹・安井(2005)に倣って、最近のデータによる名監督ランキングの作成してみた。大竹・安井(2005)では1950年から2004年で2シーズン以上指揮を執った監督を分析対象としているが、今回は1993年から2010年までの間に指揮を執った監督全員、計53人を対象とした(シーズン途中で交代となった場合はシーズン当初の監督が通年指揮したとみなした) 。
監督効果の推計結果の上位20名を示したものが表1である。表中の推計勝率とは、勝率引き上げ効果が最下位であった監督(特に名を秘す)が5割の勝率を達成できる球団を当該監督が采配した場合に達成できる予測勝率である。
このモデルが示す最も監督能力が優れた監督は、2011年も中日の監督を務める落合監督となった。落合監督は、2004年に中日の監督に就任してから7年間で優勝3度、2位3度(うち日本シリーズ優勝1度)、3位1度、Bクラスの経験はない。最下位監督が率いても5割の勝率となるチームを落合監督が采配すると、実に6割6分の勝率をマークすることになる。
3.監督能力の高い岡田監督、かたや現在の真弓監督は・・・
阪神タイガースを率いた監督の能力はどうだったか。表2は1993年以降阪神タイガースの指揮を執った監督の推計勝率を示したものである。1993年以降のタイガースは、いわゆる暗黒時代であった。1993年の4位以降、2002年まで10年連続Bクラス、うち6回が最下位。特に90年代は野手、投手とも明らかに他球団に比べて見劣りしていた。しかし表2の結果をみると、監督にも停滞の一因があるといえる。1993年から95年の中村監督(監督能力47位)、96年の藤田監督(同30位)、97・98年の吉田監督(同46位)、いずれも監督能力は低い結果となっている。吉田監督は球団史上唯一の日本一監督であるが、近年のデータで判断すれば能力値は低い。
1999年に監督に就任した野村監督は、監督能力順位では25位にとどまる。一般的には「名将」と呼ばれる野村監督にしては、順位がやや低いように思われる。これは、今回の分析で示される「監督能力」では、次年度以降の勝率への影響は無視しており、「育成」の能力は考慮していないためと考えられる。野村監督の阪神時代の成績は3年連続最下位で、監督就任時に結果は出なかった。しかし、その後のタイガースの躍進は野村監督の功績が大である。名将と呼ばれる監督能力を、阪神では十分に発揮できなかったのである。
その後星野監督(監督能力14位)が就任し、2003年にタイガースを18年ぶりの優勝に導いた。また2005年には岡田監督(同4位)のもとで優勝した。しかし個人的には、比較的チーム戦力も充実していたにもかかわらず2度しか優勝できなかったという印象を持っている。監督能力の高い落合監督(同1位)、原監督(同6位)が同時期に他球団の監督に就いていたためであろうか。
(注)監督能力は分析対象となった53人中の順位を示す。順位・勝率は当該年の順位とチーム勝率である。なお1995年は中村勝広監督がシーズン途中で休養し、藤田平氏が代理監督を務めた。1996年は藤田平氏が開幕当初監督に就いていたがシーズン途中で監督を解任され、代わりに柴田猛氏が監督代行としてチームを率いた。
4.2011年シーズンのゆくえ
最後に、2011年に各チームを率いる監督の能力を比較してみよう。ヤクルト小川監督以外の11名について、リーグ別に監督能力を並べ替えると表3のようになる 。パリーグ6球団とも相対的に監督能力の高い監督を擁している点は興味深い。
実際の勝率は、選手能力に左右されるところが大きいが、仮にチーム戦力が6球団同一であると考えると、モデルから予測される結果は、中日・ソフトバンクの連覇となる。
阪神は、2009年から現在の真弓監督が指揮を執っている。真弓監督の監督能力順位は40位。2年間の成績から判断する限り、残念ながら監督能力は高くないようである。昨シーズン中の采配を見ても、素人目ではあるが、納得しかねる選手起用(特に継投)が目立った。今年の奮起を期待したい。
【参考文献】
大竹文雄・安井健悟(2005)「プロ野球監督の能力」『日本労働研究雑誌』No.537、pp.23-25。
1.具体的には、次のようなモデルを想定して「監督効果」を推計している。
チーム勝率=a+b(平均打率)+c(本塁打数)+d(防御率)+(監督効果)
監督によって選手成績が引き上げられるという影響も考えられるが、この分析では両者は独立であると考えている。
2.大竹・安井(2005)で2シーズン以上指揮を執った監督のみ分析対象としているのは、1シーズンのみの指揮では運の要素を排除できないため、としている。
3.昨シーズン途中で初めて監督に就いたため、分析対象から外れている。小川監督は2010年5月下旬、高田繁前監督の引責辞任を受けて監督代行に就任し、59勝36敗3分(勝率.621)とそれまで低迷していたチームを劇的に再建した。